カスハラへの切り返し方10場面|「誠意を見せろ」「SNSに晒すぞ」への言い回し集(自社版ひな形つき)
2026年10月のカスハラ対策義務化に向けて、「誠意を見せろ」「上を出せ」「SNSに晒すぞ」など現場で言われがちな困った一言への切り返し方・断り方を、NG例・OK例つきで10場面解説。クッション言葉と断りの言い回し集、自社版の切り返し集を作るためのひな形(様式)も掲載。研修用ケースのたたき台としても使えます。
はじめに
「規程もマニュアルも作った。でも現場からは『実際にお客様からきつい一言を言われたとき、何て返せばいいんですか』と聞かれる」――カスハラ対策の文書整備を進めた会社が、最後に突き当たるのがこの「セリフ」の壁です。
2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法では、事業主にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の措置義務が課されます。規程・マニュアル・相談窓口といった枠組みの整え方は、これまでの記事(規程のひな形・対応マニュアル雛形)で扱いました。対応マニュアルの記事では、電話・対面・メール別の基本の応対トーク(傾聴 → 範囲提示 → 打ち切り予告 → 打ち切り)も紹介しています。
本記事は、その**「セリフ」だけを深掘りする実践編です。現場で実際に言われがちな「誠意を見せろ」「上を出せ」「SNSに晒すぞ」といった困った一言10場面について、言ってはいけない返し(NG例)と推奨する返し方(OK例)をセットで示し、あわせて断りの言い回し集**と、自社版の切り返し集を作るためのひな形(様式)を用意しました。いずれも自社版を作るためのたたき台です。研修のロールプレイ(→ カスハラ研修のやり方)で使うケースも、ここから加工して作れます。
なお、本記事の言い回しは一般的な例です。実際の対応は事案の事実関係・業種・顧客との関係によって変わります。カスハラかどうかの判断に迷う事案や、法的措置が絡む事案への個別の対応は、社労士・弁護士など専門家にご確認ください。
この記事でわかること
- 切り返し集の位置づけと、対応の基本の型(最小限のおさらい)
- 現場で使える断りの言い回し集(避けたい表現 → 推奨表現の対照表・NGワード)
- 困った一言への切り返し10場面(顧客のセリフ → NG例 → OK例 → ポイント)
- 自社版**切り返し集のひな形(様式)**と、作り方の3ステップ
- 切り返し集を研修・記録・ナレッジとして運用に載せる方法
【前提】切り返し集の位置づけと「基本の型」
切り返し集そのものが法律上の義務というわけではありません。ただ、指針が求める「労働者への周知・啓発」や「抑止のための実効性ある措置」を現場レベルで機能させる手段として、従業員が迷わず口に出せる言葉をあらかじめ用意しておくことは、有効な対策のひとつです。マニュアルが「どう動くか」の文書なら、切り返し集は「何と言うか」の文書です。
通常の案件での対応の基本形は、次の4段階です。この流れに沿ったチャネル別(電話・対面・メール)の基本の応対例は対応マニュアル雛形の4章(想定問答集)に、打ち切り基準と緊急対応は同じ記事の5・6章にまとまっています。本記事は、その先の「一言への返し方」を扱います。
- 共感・傾聴 — まず話を聞き、不便・不安を感じさせたことには配慮を示す。ただし、この配慮と、会社の過失・法的責任を認めることは別物。事実確認の前に、原因・賠償・処分を確約しない
- 事実確認 — 何があったか・何を求めているかを具体化する
- 範囲提示 — 会社として対応できる範囲を明確に伝える
- 打ち切り予告 → 打ち切り — 線を越えた言動が続く場合は終了を予告し、実行する
⚠️ 緊急時の例外:会話を続けない 暴力、凶器、物を投げる行為、具体的な危害予告などがある場合は、本記事の切り返し例を使って対応を続けてはいけません。安全な場所へ退避し、周囲へ応援を求め、緊急性があれば110番します。責任者への報告は、安全確保と通報を妨げない範囲で行います。緊急の案件では、上の4段階の順序にはよりません。
もうひとつの前提として、同じ言葉の繰り返しや、通常と異なる伝え方が、直ちにカスハラになるわけではありません。障害特性(聴覚・認知・発達障害等)、言語上の事情、商品・サービスの性質、会社側の説明不足などを確認し、必要な合理的配慮や正当な消費者対応と、社会通念上相当な範囲を超えた言動とを区別してください。
以下の10場面の切り返しは、通常案件の基本形のどこかに位置づくものです。「正当なクレーム」と「カスハラ」の線引き基準(要求の内容と手段・態様を分けて見る考え方)は本記事では繰り返しません。判断の物差しはマニュアル記事の線引き表を手元に置いてください。
まず語彙から:断りの言い回し集
セリフの前に、部品となる「言葉」を揃えます。同じことを伝えるのでも、表現ひとつで相手の反応と、後から記録を見たときの印象が大きく変わります。
| 伝えたいこと | 避けたい表現 | 推奨する表現 |
|---|---|---|
| 断る | 「できません」「無理です」 | 「いたしかねます」「お受けいたしかねます」 |
| 断る理由を言う | 「規則ですから」「決まりなので」 | 「当社では◯◯までのご対応とさせていただいております」 |
| 即答を避ける | 「わかりません」 | 「確認のうえ、◯日までに改めてご連絡いたします」 |
| 話を整理する | 「落ち着いてください」 | 「恐れ入りますが、順にお伺いさせてください」 |
| 制止する | 「やめてください」(何を指すか不明確なまま) | 「◯◯(大きなお声など)はお控えください」と、対象の行為を特定して中止を求める |
| 終了する | 「もう対応しません」 | 「本日はこれで終了させていただきます」 |
あわせて、言ってはいけないNGワードも共有しておきます。
- 「絶対」「必ず」 — その場しのぎの断言は、後で「言った・言わない」の火種になる
- 「普通は」「常識的に」 — 相手の人格・常識を否定する響きになり、態様をエスカレートさせやすい
- 「他のお客様はそんなこと言いません」 — 比較は挑発と受け取られる
- 「クレーマー」 — 社内の記録・会話でも使わない。記録は評価語ではなく、「同一の要求が5回繰り返された」「机を叩いた」「◯◯と発言した」のように、観察した事実と会社の対応を書く。評価語の記録は、後から会社側の対応姿勢を疑われる材料にもなり得る
「規則ですから」を避けるのは、規則の存在が悪いからではありません。理由の説明を放棄した響きになり、「規則を作ったやつを出せ」と対象を変えて続く展開を招きやすいからです。「当社では◯◯までのご対応とさせていただいております」と会社の判断として範囲を示す形に言い換えます。
なお、丁寧な言い換えが常に正解というわけではありません。緊急の場面では、丁寧な言い回しより安全確保を優先します。また、明確に行為の中止を求めるべき場面では、「その行為はおやめください」と端的に伝えるほうが適切なこともあります。
困った一言への切り返し10場面
ここが本記事の中心です。各場面とも「顧客のセリフ → NG例 → OK例 → ポイント」の順で示します。OK例は一言一句この通りである必要はありません。「何を言い、何を言わないか」の骨格を自社の言葉に置き換えてください。
場面1:「誠意を見せろ」
- NG例:「誠意と申しますと……おいくらほどをお考えでしょうか」
- OK例:「恐れ入りますが、具体的にどのようなご要望でしょうか。内容をお伺いしたうえで、当社でお受けできる範囲をご案内いたします」
- ポイント:「誠意」という曖昧な言葉のまま対応を進めないのが原則です。こちらから金銭の話を持ち出すことは、法外な要求の呼び水になるため避けます。要求を具体化してもらうことで、正当な範囲の要望なのか、過大な要求なのかが判断できる状態になります。
場面2:「上を出せ。社長を出せ」
- NG例:「私では分かりかねますので、上の者に代わります」(即座に交代する)
- OK例:「本件は私が担当として承っております。内容により責任者からの回答が必要な場合は、社内で確認のうえ、改めてご連絡いたします」
- ポイント:誰が対応するかは会社が決めることです。求められるたびに上位者を出すと、「騒げば上が出てきて要求が通る」という成功体験を与えてしまいます。一方で、担当者を守るために会社側の判断で責任者が交代・同席する(複数名対応)のは有効な対応です。「相手の要求で出す」のではなく「自社のエスカレーション基準で出す」と整理してください。
場面3:「土下座して謝れ」「家まで謝りに来い」
- NG例:(その場を収めるために応じてしまう)
- OK例:「謝罪は、この場で申し上げているとおりです。土下座やご自宅への訪問といったご要望には、お応えいたしかねます」
- ポイント:土下座の強要は、態様によっては強要罪等の犯罪に当たり得る行為です。謝罪の「気持ち」と、謝罪の「方法の指定」は別物で、方法の指定には応じないと社内で統一しておきます。自宅など会社の管理が及ばない場所での対応は、従業員の安全の観点からも原則行いません。身の危険を感じる態様では、冒頭の「緊急時の例外」のとおり、会話を続けず退避・通報を優先します。
場面4:「SNSに晒すぞ」「口コミに書き込んでやる」
- NG例:「それだけはご勘弁ください。どうにかしますので……」
- OK例:「ご意見は承りました。投稿のご予告を理由に個別の補償内容を変更することはいたしかねますので、当社の基準に沿ってご案内いたします。実際の投稿について権利侵害等の問題が生じた場合には、内容を確認のうえ、会社として対応いたします」
- ポイント:お客様が体験や意見を口コミ・SNSに投稿すること自体は、原則として正当な行為です。投稿を牽制したり、応酬したりするのではなく、予告を理由とする例外対応を避けることに徹します。脅し文句として使われた発言は、日時・文言を記録(メール・チャットなら保存)しておきます。
あわせて、実際に投稿された場合のミニフローも決めておくと安心です。公開の場で応酬しないことを前提に、①URL・アカウント名・投稿日・取得日時が分かる形で保存 → ②対応を社内責任者に一本化 → ③事実関係の確認 → ④必要に応じて訂正依頼・プラットフォームへの申告・弁護士への相談、と進めます。返信や社内共有の際にも、公開の場に個人情報を出さないよう注意してください。
場面5:「訴えるぞ」「消費者センターに相談するからな」(法的手続・行政相談の示唆)
- NG例:「それは困ります。では今回に限り◯◯させていただきます」(慌てて上乗せする)
- OK例:「ご相談・お手続きは、お客様のご判断で行っていただけます。当社としては、確認できている事実と、これまでご説明した内容に沿ってご対応いたします」
- ポイント:訴訟や行政機関への相談の予告は、それ自体は正当な権利行使です。カスハラとして扱ったり、妨げたり非難したりしてはいけません。担当者がやるべきことは2つ。その場で責任や補償を確約しないこと、そして発言と事実関係を記録して社内責任者へ報告することです。なお、事故・身体被害・個人情報漏えい・重大な契約問題などが絡む場合は、相手方からの通知を待たず、必要に応じて会社側から弁護士・保険会社等へ相談してください。顧客との法的紛争への対応は、弁護士の領域です。
場面6:「納得できない。今日は帰らないからな」「今すぐ回答しろ」
- NG例:(早く帰ってほしい一心で、その場で要求を受け入れる)
- OK例:「本日この場でのお答えはいたしかねます。社内で確認のうえ、◯日までに改めてご連絡いたします。本日はここまでとさせていただきます」
- ポイント:即答を求められても、確認が必要な事項はその場で確約しないことです。「その場で決めない・期限を区切って持ち帰る」を基本にします。閉店時刻や業務時間を伝えても退去しない場合は、不退去として警察への通報対象になり得ます。対面での膠着は一人で抱えず、責任者への引き継ぎと複数名対応に切り替えてください。
場面7:「あの担当者をクビにしろ」「あいつを二度と出すな」
- NG例:「担当者にはきつく言っておきます。処分も検討します」
- OK例:「従業員の処遇は当社が判断する事項ですので、そのご要望にはお応えいたしかねます。ご指摘いただいた対応の内容については、社内で確認いたします」
- ポイント:懲戒や解雇を顧客に約束しないこと、事実確認と人事上の判断は会社の内部で行うことが原則です。担当者による暴行・差別・重大な不正などが疑われる場合、申出自体には合理性があり得るため、「過大な要求」と決めつけずに事実確認の対象として受け取ります。担当変更の要否も、安全・業務運営・申出の内容を踏まえて会社が判断し、処分の内容は原則として顧客に開示しません。相手の前で従業員を叱責したり、処分を約束したりするのは、従業員を守る方針(規程第3条)と矛盾する対応です。
場面8:「前はやってくれた」「他の店はやってくれるぞ」
- NG例:「以前そうだったのであれば、今回も対応します」
- OK例:「その節の対応については確認いたしますが、現在の当社の基準では、◯◯までのご対応とさせていただいております」
- ポイント:過去の対応だけで、今回も同じ対応が当然に決まるわけではない、と整理することです。ただし、一律に断る前に、契約内容・表示・従前の説明・合理的配慮の要否を確認し、差別的な取扱いにならないかも含めて検討したうえで、現在の基準と今回の判断理由を説明します。ここで基準を示せるかどうかは、日頃から「会社として対応できる範囲」が文書化されているか(→マニュアル・切り返し集)にかかっています。
場面9:同じ要求の執拗な繰り返し(何度も電話・連日の来訪)
- NG例:(毎回、初回と同じように最初から説明し続ける)
- OK例:「◯◯の件は、これまでにご説明したとおりです。同じご説明の繰り返しとなりますので、新しいお話がなければ、このお電話は終了させていただきます」
- ポイント:「回答済み」と宣言してよいと現場に伝えておくことです。誠実対応=毎回ゼロから聞き直すこと、ではありません。ただし終了予告の前に、前回回答の日時・内容を確認し、未回答の事項や新しい事実がないかを一度だけ確かめます(本人の取り違え・会社側の回答漏れ・障害等による理解の行き違いを見逃さないため)。「同一要求◯回で責任者へ」「対応◯分超で引き継ぎ」といった数値基準や、メール・チャットの連投への定型返信はマニュアル記事(4・5章)をどうぞ。
場面10:要求内容は正当。ただし暴言つき
- NG例:(不備があった負い目から、暴言・人格攻撃まで耐え続ける)
- OK例:「ご指摘の件は当社の不手際であり、お詫び申し上げます。交換のお手続きを進めさせていただきます。ただ、恐れ入りますが、大きなお声や担当者個人へのお言葉はお控えいただけますでしょうか。続く場合は、対応をいったん中断させていただきます」
- ポイント:現場が最も迷う場面です。要求の内容(正当 → 誠実に対応する)と、言動の態様(過剰 → 毅然と対応する)を分けて、両方を同時に実行します。「不備があったのだから何を言われても仕方ない」は誤りで、内容が正当でも、暴言・長時間拘束・人格攻撃の部分はカスハラとして扱えます。この二軸の考え方は規程の定義条文(→ 規程ひな形 第2条)にも組み込んでおくと、現場対応の根拠になります。
自社版「切り返し集」ひな形(様式)
本記事の10場面は、あくまで一般例のたたき台です。緊急時の判断・担当者の権限・業種の法令や契約上の制約は会社ごとに違うため、そのまま配布はせず、自社の実例と権限のルールを流し込んだ自社版にしてから現場へ渡してください。1場面1枚で書き足していける様式を用意しました。
■ カスハラ切り返しシート(1場面1枚)
場面名:【例:返金要求+長時間電話】
チャネル:電話 / 対面 / メール・SNS
想定される顧客の言動(実際にあった事例・セリフ):
【 】
一次対応(推奨する返し方):
【 】
言ってはいけない返し(NG例と、その理由):
【 】
エスカレーション基準(この状態になったら責任者へ):
【例:同一要求が3回繰り返された/対応が30分を超えた/
暴言・人格攻撃が始まった】
緊急離脱・110番基準(切り返しを使わず、対応を続けない場合):
【例:暴力・凶器・物を投げる行為・具体的な危害予告
→ 会話を続けず退避し、応援を求め、110番する。
責任者への報告は安全確保のあとでよい】
打ち切りの文言:
【例:「これ以上のご対応はいたしかねますので、本日は
終了させていただきます」】
権限(誰がどこまでできるか):
・このシートを使用できる担当者:【 】
・担当者が単独で打ち切ってよい範囲:【 】
・引継ぎ先の責任者/打ち切り等の承認者:【 】
・業種別の法令・契約上の例外(該当あれば):【 】
証拠の保存:
・原データの種類(録音/メール/SNS投稿/カメラ映像等):【 】
・保存・利用目的:【例:再発防止・従業員保護・対応方針の検討】
・取得日時/保存場所/保存担当者:【 】
・アクセス権限/保存期限:【 】
・外部提供の可否/提供先(警察・弁護士等):【 】
・削除・保存期限到来時の処理:【例:期限到来時に保存担当者が削除】
※SNSはURL・アカウント名・投稿日・取得日時を含めて保存する
※録音・録画は、社内規程・利用目的・告知の方針に従う
※生成AI等の外部ツールには、匿名化したうえで、会社が承認した
環境以外に顧客・従業員の個人情報・機密情報を入力しない
対応後にやること:記録(対応記録シートへ・観察した事実ベースで)/
上長へ報告/被害を受けた従業員に社内の
相談窓口を案内
関連文書:対応マニュアル◯章/防止規程 第◯条
作成日・作成者: / 改訂日:
作り方の3ステップ
- 過去のクレーム・ヒヤリ事例を棚卸しする — 直近半年〜1年で現場が「困った」対応を集めます。日報・対応記録・従業員へのヒアリングが素材です。全部は要りません。頻度の高い3場面から作ります。
- 本記事の10場面から近いものを流用し、自社版に調整する — 商品名・業界の言い回し・実際のセリフに置き換えると「うちの話」になります。あわせて、権限(誰がどこまで打ち切れるか)・緊急離脱の基準・契約や業種の法令上の例外を、自社の実情で必ず確認してください。言葉の差し替えだけで配布しないことが大切です。
- 研修で読み合わせ、ロールプレイする — 配って終わりでは現場の口から出ません。30〜45分の社内研修(→ 進行例はこちら)の演習パートで、顧客役・対応役に分かれて声に出して練習するのが有効です。
作った後は、新しい事案が出るたびに1枚追記していきます。切り返し集は完成品ではなく、対応記録と往復しながら育てる「生きた文書」と考えてください。
社労士エンジニアの視点:切り返し集を「引ける・育つ」状態にする
ここからは、社労士エンジニアとしての視点です。切り返し集の弱点は、紙のファイルに綴じた瞬間に誰も見なくなることです。運用に載せるには、次の工夫が効きます。
- 検索できる場所に置く — Notion・kintone・社内Wiki等に「場面 × セリフ × 返し方」で登録し、現場がスマホで検索して引ける状態にします。電話を保留にした30秒で引けるかどうかが、実用性の分かれ目です。
- 対応記録から自動的にネタを拾う — 対応記録(→ 記録テンプレート)をフォームで集めていれば、「最近増えている場面」が集計で見えます。切り返し集に追加すべき場面の優先順位がデータで決まります。
- 生成AIで自社業種版のたたき台を作る — 本記事の10場面と自社の業種・商材・事例を読み込ませれば、業種の言葉に合わせた切り返しのたたき台は短時間で作れます。ただし注意が2点。第一に、事例を入力する際は匿名化したうえで、会社が承認した環境以外に顧客・従業員の個人情報や機密情報を入力しないこと。第二に、打ち切り基準や法的評価に関わる部分は、社労士・弁護士のチェックを通してから現場に配ることです。
同業の社労士の先生へ — 本記事のような切り返し集・ひな形を顧問先の業種ごとに整える作業は、型を一度作ってしまえば大きく効率化できます。当事務所で顧問先30社分のハラスメント対策文書を一括作成した実演動画と、相談メールの一次対応を仕組みで回した実演動画、それぞれの再現キット(指示ルール・テンプレート・手順の一式)をLINEで無料配布しています。→ LINEで受け取る
よくある質問
Q1. 切り返し集(想定問答)の作成は法律上の義務ですか?
いいえ、こうした文書そのものが義務づけられているわけではありません。義務化で求められるのは方針の明確化・周知啓発・相談体制の整備などの措置です。ただし、指針が例示する「実効性ある措置」(マニュアル整備・研修等)を現場で機能させる手段として、切り返し集は実用的な文書のひとつです。
Q2. 対応マニュアルと別に作る必要がありますか?
別冊でも、マニュアルの1章としてでも構いません。大事なのは形式ではなく、現場が対応の直前・直後にすぐ引ける状態になっていることです。分量が増えてきたら、マニュアル本体(方針・基準)と切り返し集(セリフ集)を分け、切り返し集だけを頻繁に更新する運用が管理しやすくなります。
Q3. 従業員が例文どおりに言えません。丸暗記させるべきですか?
丸暗記は不要です。覚えてもらうのは一言一句ではなく、「何を言わないか(金額を口にしない・その場で約束しない等)」と「困ったら誰に引き継ぐか」の2点です。そのうえで、研修のロールプレイで一度声に出しておくと、実際の場面で言葉が出やすくなります。
Q4. 自社の業種に合う例がありません
本記事の10場面は業種を問わず起こりやすいものを選んでいますが、医療・介護・不動産・ECなど、業種特有の場面が生じることがあります。過去の実例の棚卸し(作り方ステップ1)を出発点に、10場面の骨格(NG・OK・エスカレーション基準)へ自社の言葉を流し込んでください。自社での作成が難しい場合は、業種の実情を伺ったうえでの作成支援も承っています。
まとめ
- 規程・マニュアルの次に現場が必要とするのは、「何と言うか」=切り返し集。文書自体は義務ではないが、周知・啓発と抑止措置を実効化する実用的な手段。
- 語彙から揃える。「できません」→「いたしかねます」、「規則ですから」→「当社では◯◯までのご対応とさせていただいております」。「絶対」「普通は」「クレーマー」はNGワード。
- 切り返しの共通原則は、曖昧な要求は具体化させる・その場で決めない・予告や威嚇を理由に対応を変えない・内容と態様を分けて扱うの4つ。10場面の骨格を、たたき台として自社の言葉に差し替えて使う。
- 暴力・凶器・具体的な危害予告があるときは、切り返しを使わない。退避・応援要請・110番が先。また、障害特性や言語上の事情による伝え方の違いを、カスハラと混同しない(合理的配慮・正当な消費者対応との区別)。
- 自社版は頻出3場面から。1場面1枚の様式で作り、研修のロールプレイで声に出し、事案が出るたびに追記して育てる。
- 検索できる置き場所・対応記録との連動・AIによるたたき台生成で、「引ける・育つ」切り返し集にできる(法的判断部分は専門家チェックが前提)。
- 本記事の言い回しは一般例です。個別の事案への対応・最新の取り扱いは、社労士・弁護士など専門家にご確認ください。
当事務所では、カスハラ対策の義務化対応について、次のような支援が可能です。
- 業種・実例に合わせた切り返し集・対応マニュアルの作成
- 切り返し10場面を教材にした社内研修の設計・実施(ロールプレイ進行を含む)
- Notion・kintone・フォームを使った切り返し集の検索化と対応記録の仕組み化
- 規程・相談窓口を含む義務化対応の一気通貫整備
「10場面を自社向けに直したが、この言い回しで問題ないか見てほしい」という段階でも構いません。初回相談は30分無料です。お気軽にお問い合わせください。料金はサービス・料金ページにまとめています。
関連記事
- カスハラ対応マニュアル雛形|中小企業向けテンプレートと想定問答集 — 本記事の土台。対応の流れ・チャネル別の基本問答・線引き基準・打ち切り基準・記録テンプレート。
- カスハラ防止規程のひな形・記載例 — 切り返しの根拠になる「方針・定義」の条文ひな形。
- カスハラ研修のやり方|30分の進行例 — 本記事の10場面をロールプレイ教材として使う場合の進行例。
- カスハラ相談窓口の作り方|中小企業は兼任でOK — 対応後の従業員をケアする受け皿。打ち切り後の相談先として重要。
- カスハラ対策義務化まで残り3ヶ月|逆算準備スケジュール — 10月施行までに何をいつまでにやるかの全体工程表。
参考リンク