·23 分で読了

9月から社会保険料が変わります|「手取りが減った」と聞かれる前に配るお知らせ文ひな形

7月に提出した算定基礎届の結果は9月分の社会保険料から適用され、多くの会社では10月支払いの給与で手取りが変わります。従業員から「なぜ減ったのか」と聞かれる前に配れるお知らせ文のひな形、控除タイミングの確認方法、給与システムの設定変更チェックリストまで、ITに強い社労士が整理します。

#社会保険#標準報酬月額#定時決定#給与計算#中小企業

はじめに|10月の給与で、問い合わせが来ます

7月に算定基礎届を提出して、ひと段落——と思ったところに、毎年やってくるのがこの問い合わせです。

「今月、手取りが減っているんですけど」

原因は、算定基礎届によって決まった新しい標準報酬月額が、9月分の社会保険料から適用されることにあります。そして多くの会社では、9月分の保険料を10月支払いの給与から控除するため、従業員が変化に気づくのは10月の給与明細を見たときです。

しかも厄介なことに、4〜6月の残業が多く報酬の平均が上がった結果、標準報酬月額の等級が上がった人は保険料も上がるという構造になっています。本人からすれば「春に頑張って働いたのに、秋に手取りが減った」と見えるわけで、説明がないと不満につながります。

本記事では、なぜ9月から変わるのかいつの給与から反映されるのか、そして従業員に配れるお知らせ文のひな形を用意しました。給与システムの設定変更で見落としやすい点も、社労士エンジニアの視点で整理します。

本記事は一般的な解説です。個別の判断や最新の取り扱いは、日本年金機構の公表資料や社労士にご確認ください。

この記事でわかること

  • 9月から保険料が変わる仕組み(定時決定の反映タイミング)
  • 自社がいつの給与から控除を変えるべきかの確認方法(当月控除・翌月控除)
  • 従業員に配れる お知らせ文のひな形
  • 「4〜6月の残業で等級が上がると保険料も上がる」を、角が立たずに説明する言い方
  • 給与システムの 設定変更チェックリスト

なぜ9月から変わるのか

社会保険料は、標準報酬月額という区分に基づいて計算されます。この標準報酬月額は、毎年7月に提出する算定基礎届(定時決定)によって、原則として4月・5月・6月に支払われた報酬の平均から決まります(支払基礎日数が不足する月の除外や、年間平均による保険者算定などの例外があります)。

そして決まった標準報酬月額は、その年の9月分から翌年8月分まで適用されます。つまり——

  • 4〜6月の報酬 → 7月に届出 → 9月分の保険料から新しい標準報酬月額を適用

という流れです。算定基礎届そのものの書き方や、4〜6月の数え方については 算定基礎届とは?中小企業のための定時決定の書き方と4〜6月の注意点 にまとめています。

なお、9月以降に大きな昇給・降給があった場合は、定時決定とは別に**随時改定(月額変更届)**の対象になることがあります。

いつの給与から控除を変えるか|ここを間違えると全員に影響します

実務でいちばん事故が起きるのが、控除するタイミングです。

社会保険料は「当月分の保険料を、翌月支払いの給与から控除する」のが一般的な取り扱いです(翌月控除)。この場合、9月分の保険料は10月支払いの給与から新しい金額になります。

一方、給与の締め日・支払日の設定によっては、当月支払いの給与から当月分を控除している会社(当月控除)もあります。この場合は9月支払いの給与から変わります。

控除の方法 9月分保険料を控除する給与 従業員が気づくタイミング
翌月控除(一般的) 10月支払いの給与 10月の給与明細
当月控除 9月支払いの給与 9月の給与明細

自社がどちらかを確認する方法は簡単で、直近の給与明細を1枚見て、「その月の給与から控除されている保険料が、いつの月分にあたるか」を給与計算の設定と突き合わせるだけです。分からない場合は、給与計算を依頼している社労士や、給与ソフトの設定画面(控除月の設定)を確認してください。

入社月・退職月の扱いを間違えやすいのもこの部分です。たとえば翌月控除の会社で月末に退職した場合、退職月の給与から前月分と退職月分の2か月分を控除することがあります(月の途中で退職した場合は、退職月分の保険料は発生しません)。ここを誤ると返金や追加徴収が発生します。

従業員向けお知らせ文のひな形

問い合わせを減らす一番の方法は、給与明細が出る前に配ってしまうことです。以下は、掲示・チャット配信・給与明細への同封のいずれにも使えるひな形です。【 】を自社の情報に差し替えてください。

⚠️ 配布前に、自社の控除方法(当月控除/翌月控除)を確認し、支給日を確定してから配布してください。

記載例(メール・チャット配信用)

件名:【重要】9月分からの社会保険料の変更について

従業員のみなさまへ

定時決定の結果が毎年9月分の保険料から適用されることについて、
お知らせします。

■ 1. 何が変わるのか

健康保険料・厚生年金保険料の計算のもとになる「標準報酬月額」に
ついて、定時決定による年1回の見直しとして、9月分から新しい
標準報酬月額が適用されます。これは法律で定められた手続きで、
会社が個別に判断しているものではありません。

■ 2. どの給与から変わるのか

【 】年【 】月【 】日支払いの給与から、控除額が変わります。
人によって、増える方・減る方・変わらない方がいます。

■ 3. 何をもとに決まっているのか

原則として【今年の4月・5月・6月】に支払われた給与の
平均額をもとに決まっています。この期間の残業などで平均額が上がり、標準報酬月額の
等級が上がった方は、それに伴って保険料も上がります。

なお、標準報酬月額は、将来の厚生年金の額や、傷病手当金・
出産手当金の算定にも関係します。ただし、今回の改定額が
そのまま給付額に反映されるとは限りません。

■ 4. ご確認のお願い

上記2に記載した支給日の給与明細で、健康保険料・厚生年金
保険料の欄をご確認ください。ご不明な点は【担当部署・担当者名】までお問い
合わせください。

【会社名】【担当部署】

説明のときに気をつけたい一言

このお知らせで一番揉めやすいのが、**「4〜6月の残業で等級が上がると保険料も上がる」**という点です。ここは事実なので隠せませんが、伝え方で受け取られ方が変わります。

避けたいのは「4〜6月に残業したからです」で終わる説明です。従業員からすると「じゃあ4〜6月は残業しない方が得なのか」という話になり、繁忙期の運営に影響します。

ひな形にも入れましたが、標準報酬月額は、将来の厚生年金の額や、傷病手当金・出産手当金の算定にも関係します。ただし、傷病手当金・出産手当金は原則として支給開始日の属する月以前の直近12か月の標準報酬月額の平均を基礎とし、年金額は加入期間全体などによって決まるため、今回の改定額がそのまま給付額に反映されるとは限りません。それでも「保険料が増えるだけの話ではない」という一言を添えると、説明として片手落ちになりません。

会社側の作業チェックリスト

9月(または10月)の給与計算までに、次を確認してください。

  • 標準報酬月額決定通知書が年金事務所(または健康保険組合)から届いているか
  • 通知書の内容と、給与ソフトに登録している標準報酬月額が一致しているか(全員分)
  • 控除を変えるタイミング(当月控除/翌月控除)を確認したか
  • 料率の改定時期を確認したか(健康保険・介護保険等の料率改定は定時決定とは別の事象です。9月の標準報酬月額改定と混同していないか)
  • 40歳到達者・65歳到達者の介護保険料の徴収開始・終了を反映したか(介護保険第2号被保険者の資格は40歳の誕生日の前日に取得し、65歳の誕生日の前日に喪失。1日生まれは該当月の判定を誤りやすく、給与への反映月も当月控除・翌月控除で異なります)
  • 従業員へのお知らせを配布したか(給与明細が出る前に)

社労士エンジニアの視点:この作業は「毎年同じミス」が起きます

ここからは、社労士エンジニアとしての視点です。

定時決定による一斉改定は年1回で、しかも全従業員の給与に影響します(標準報酬月額の変更自体は、随時改定や資格取得時にも発生します)。年1回の一斉作業は、事故を起こしやすい構造です。しかも担当者が交代すると、前年のやり方が引き継がれません。

  • 手順書を1枚作って、給与フォルダに置いてください。 「通知書が届いたら → ソフトのどの画面で → 誰が確認して → いつの給与から反映」を書いた1枚があるだけで、翌年の作業時間と事故率が変わります。年1回の作業ほど、記憶ではなく手順書に頼るべきです
  • 登録は「入力」ではなく「照合」の作業にする。 通知書の標準報酬月額を給与ソフトに手入力する運用では、桁の入力ミスが生じるおそれがあります。全員分を印刷して1人ずつチェックするより、通知書とソフトの一覧を並べて突き合わせる形にした方が、ミスは見つかります
  • お知らせ文はテンプレート化して、毎年使い回す。 変わるのは日付と担当者名だけです。毎年ゼロから作っている会社は、その時間をそのまま損しています

年1回の定型業務ほど、仕組みにしておく価値があります。労務のクラウド化については 勤怠・給与計算のクラウド化を社労士に外注する、ツール選びは どの労務ツールを選ぶべきか|中小企業向け労務DX もご覧ください。

同業の社労士の先生へ — 顧問先ごとのお知らせ文や手順書を毎年整える作業は、型を一度作れば大きく効率化できます。当事務所で顧問先30社分のハラスメント対策文書を一括作成した実演動画と、相談メールの一次対応を仕組みで回した実演動画、それぞれの再現キット(指示ルール・テンプレート・手順の一式)をLINEで無料配布しています。→ LINEで受け取る

よくある質問

Q1. 全員の保険料が上がるのですか?

いいえ。4〜6月の報酬の平均によって、上がる人・下がる人・変わらない人がいます。昇給があった方は上がりやすく、残業が減った方は下がることもあります。

Q2. 保険料が上がると、損なのでしょうか?

保険料の負担は増えますが、標準報酬月額は将来の厚生年金の額や、傷病手当金・出産手当金の算定にも関係します。ただし、傷病手当金・出産手当金は支給開始日の属する月以前の直近12か月の標準報酬月額の平均が基礎となり、年金額は加入期間全体などで決まるため、今回の改定がそのまま給付額に反映されるわけではありません。単純な損得では語れない、というのが正確な説明です。

Q3. 9月以降に給与が大きく変わった場合はどうなりますか?

固定的賃金の変動があり、一定の要件を満たす場合は、定時決定とは別に**随時改定(月額変更届)**の対象になります。定時決定を待たずに標準報酬月額が変わるため、該当しそうな方がいる場合は個別に確認してください。

Q4. お知らせは必ず配らないといけませんか?

法律上の義務ではありません。ただし、配らないと問い合わせが増える可能性があります。配る手間より、問い合わせ対応の手間の方が大きくなりがちというのが実務上の実感です。

まとめ

  • 7月に提出した算定基礎届の結果は、9月分の保険料から適用される(翌年8月分まで)
  • 多くの会社では翌月控除のため、従業員が気づくのは10月支払いの給与。当月控除の会社は9月支払いから
  • 従業員には給与明細が出る前にお知らせを配る。問い合わせ対応より配布の方が軽い
  • 「4〜6月の残業で等級が上がると保険料も上がる」は事実だが、標準報酬月額は厚生年金や傷病手当金・出産手当金の算定にも関係することを添える(ただし今回の改定がそのまま給付に反映されるとは限らない)
  • 会社側は、通知書とソフトの照合・控除タイミング・保険料率・介護保険料の開始終了を確認する
  • 年1回の作業ほど、手順書とテンプレートにしておく

当事務所では、次のような支援が可能です。

  • 標準報酬月額決定通知書と給与データの照合チェック
  • 従業員向けお知らせ文の作成(自社の給与サイクルに合わせた文面)
  • 給与計算・年間の労務スケジュールの仕組み化(手順書の整備を含む)
  • 随時改定(月額変更届)の該当者の確認

「自社がいつの給与から変えるべきか分からない」という段階でも構いません。初回相談は30分無料です。お気軽に お問い合わせ ください。料金は サービス・料金ページ にまとめています。

関連記事


参考リンク