フリーランス新法と取適法(旧下請法)の違い|業務委託でどちらが適用される?
フリーランス新法と取適法(旧下請法)の違いを、対象範囲・規模要件・禁止行為・適用関係から比較。中小企業の発注者が業務委託で確認すべきポイントを実務目線で解説します。
はじめに
「フリーランスに外注しているけど、これって下請法?それともフリーランス新法?」――業務委託をする中小企業の発注者から、最近とくに増えた質問です。
混乱の理由ははっきりしています。2024 年 11 月にフリーランス新法が施行され、さらに 2026 年 1 月 1 日には、長年おなじみだった「下請法」が大幅に改正されて「取適法(中小受託取引適正化法)」に名称変更・規制強化された からです。似た規制を持つ 2 つの法律が並び立ち、しかも片方は名前まで変わったため、「結局うちはどっちを守ればいいの?」という状態に陥りがちです。
本記事では、社労士エンジニアの視点から、フリーランス新法と取適法(旧・下請法)の違い を、対象範囲・規模要件・義務内容・適用関係の 4 つの軸で整理します。
フリーランス新法そのものの発注者義務(3 条書面・60 日支払・禁止行為など)は、親記事 フリーランス新法で中小企業の発注者が対応すべきこと|業務委託の 5 つの実務ポイント にまとめています。本記事はその比較・棲み分け編です。
この記事でわかること
- 取適法(旧・下請法)が 2026 年 1 月に何が変わったか
- フリーランス新法と取適法の対象範囲・規模要件の違い
- 2 つの法律の義務内容の比較
- 「どちらが適用されるか」の実務的な見分け方
- 発注先を法律別に棚卸しする IT のヒント
まず大前提:2026 年 1 月、下請法は「取適法」になった
比較に入る前に、下請法の改正を押さえておく必要があります。2026 年 1 月 1 日施行 の改正により、次が変わりました。
- 名称変更 — 「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」→「中小受託取引適正化法(取適法)」
- 用語変更 — 「親事業者」→「委託事業者」、「下請事業者」→「中小受託事業者」
- 規模要件の拡大 — 従来の 資本金基準 に加えて 従業員数基準 が新設された
- 規制の強化 — 禁止行為に、協議を経ない一方的な代金額の決定(買いたたきの明確化)や、支払手段(手形等)に関する制限などが加えられた
⚠️ 「下請法」で検索しても、中身は取適法に変わっています 通称として「下請法」「改正下請法」と呼ばれることは今も多いですが、現行の正式な枠組みは取適法です。本記事では「取適法(旧・下請法)」と表記します。
規模要件に「従業員数」が加わったインパクト
従来の下請法は 資本金の額 だけで対象を判定していました。改正後の取適法では、資本金基準に加えて、常時使用する従業員数(製造委託等は 300 人、情報成果物作成・役務提供委託等は 100 人)による基準が新設され、資本金基準・従業員数基準のいずれかに該当すれば対象 になります。
これにより、「資本金は小さいが従業員数は多い」という中小企業が、新たに委託事業者として取適法の対象に入ってくるケースが出てきました。「資本金 1,000 万円だから下請法は関係ない」という従来の感覚は、もう通用しません。
違い その 1:対象範囲(誰と誰の取引か)
2 つの法律の最大の違いは、規制対象となる当事者の決め方 です。
| 観点 | 取適法(旧・下請法) | フリーランス新法 |
|---|---|---|
| 発注側の判定 | 資本金 または 従業員数 の規模要件で判定 | 規模要件なし(従業員を使う個人・法人等が対象) |
| 受注側 | 規模要件を下回る事業者(法人も含む) | 特定受託事業者=従業員を使用しない個人事業主・代表者のみの一人法人 |
| 取引の種類 | 製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託に加え、改正により特定運送委託も対象 | 事業者間の業務委託(広く対象) |
| 規制の主眼 | 事業者間取引の代金支払・取引適正化 | 個人で働く人の取引条件・就業環境の保護 |
ポイントは 2 つです。
- 取適法は「規模」で線を引く — 委託事業者が規模要件を満たさなければ、相手が小規模事業者でも取適法は適用されません。
- フリーランス新法は「相手がフリーランスか」で線を引く — 発注側の規模を問わず、受注者が「従業員を使わない個人・一人法人(=特定受託事業者)」なら対象になります。
違い その 2:義務内容の比較
両法は支払期日 60 日や禁止行為など似た規制を持ちますが、フリーランス新法には 就業環境の保護 という独自の柱があります。
| 義務 | 取適法(旧・下請法) | フリーランス新法 |
|---|---|---|
| 取引条件の書面交付 | ○(3 条書面) | ○(3 条の明示。電磁的方法可) |
| 支払期日 | ○ 受領日から 60 日以内 | ○ 受領日から 60 日以内 |
| 禁止行為 | ○ 受領拒否・代金減額・買いたたき等(改正で強化) | ○ 1 か月以上の委託で 7 つの禁止行為 |
| 書類の作成・保存 | ○(5 条) | △(明示書面の保存は実務上必要) |
| ハラスメント対策 | × | ○(相談体制の整備義務) |
| 育児介護等への配慮 | × | ○(6 か月以上の委託) |
| 中途解除の 30 日前予告 | × | ○(6 か月以上の委託) |
| 募集情報の的確表示 | × | ○ |
| 主な執行機関 | 公正取引委員会・中小企業庁 | 公正取引委員会・厚生労働大臣 |
💡 フリーランス新法は「労働法寄り」の発想が入っている ハラスメント対策・育児介護配慮・解除予告は、もともと労働者保護で使われてきた考え方です。フリーランス新法に厚生労働大臣が関わるのはこのためで、「個人で働く人を、労働者に準じて守る」という色彩が強い法律です。取適法が"取引の公正"を見るのに対し、フリーランス新法は"働く人の保護"まで踏み込んでいます。
違い その 3:どちらが適用されるかの見分け方
実務でいちばん知りたいのは「結局うちの取引はどっち?」でしょう。次の順で考えると整理しやすくなります。
【ステップ1】相手は「特定受託事業者」か?
=従業員を使わない個人事業主、または代表者のみの一人法人か?
No(従業員を抱える法人など) → フリーランス新法は対象外。取適法のみ検討
Yes → ステップ2へ
【ステップ2】自社(発注側)は取適法の規模要件を満たすか?
=資本金基準 または 従業員数基準に該当するか?
No → 取適法は対象外。フリーランス新法で対応
Yes → 取適法とフリーランス新法の双方が関係しうる
両方が関係しうる場合の考え方
委託事業者が規模要件を満たし、かつ相手が特定受託事業者(個人・一人法人)であるときは、両法が重なり得る領域 になります。一般的な実務整理としては、
- 取適法が適用される取引 では、まず取適法のルール(書面・60 日支払・禁止行為など)を守る
- そのうえで、ハラスメント対策・配慮義務・解除予告など、取適法にはないフリーランス新法独自の義務 も併せて満たす
という"いいとこ取りで重い方に合わせる"対応が安全です。
⚠️ 適用関係はケースで分かれます どちらが適用されるか・両方かは、取引の種類(製造委託等や特定運送委託に当たるか)や当事者の規模・形態で変わります。微妙なケースは、契約類型ごとに専門家へ確認することをおすすめします。判断に迷う取引は 初回無料相談 でお受けしています。
中小企業がやるべきこと:発注先の「法律別」棚卸し
違いを理解したら、次は自社の発注先がどちらの法律にかかるかを 一覧で可視化 することが実務の出発点です。親記事でも触れた「業務委託先一覧」を、法律判定まで含めて作り込みます。
最低限、次の列を持たせると判定できます。
■業務委託先 管理台帳(法律判定つき)
・取引先名
・相手の形態:個人/一人法人/従業員あり法人
・特定受託事業者に該当:Yes/No
・委託の種類:製造/修理/情報成果物/役務/特定運送/その他
・自社の規模要件該当(取適法):Yes/No
・適用法:取適法/フリーランス新法/両方/対象外
・取引開始日・継続月数(1か月/6か月の線引き用)
・支払サイト(60日以内か)
IT に強い社労士のヒント
- kintone / Google スプレッドシートで判定を半自動化 — 「相手の形態」「委託の種類」「自社の規模要件」を選択式にし、関数や条件分岐で「適用法」列を自動表示。担当者が毎回法律を判断しなくて済みます。
- 継続月数の自動計算 — 取引開始日から経過月数を計算し、「1 か月以上」「6 か月以上」のしきい値を超えたら色が変わるようにすると、禁止行為・解除予告のトリガーを見落としません。
- 発注フォームで入口を統一 — 発注時に 3 条書面の必須項目(業務内容・納期・報酬・支払期日)を必ず埋める運用にすれば、取適法・フリーランス新法どちらにも共通して必要な書面交付を自動で満たせます。
法律ごとに別管理にするより、1 つの台帳で「どの取引にどの法律がかかるか」を一目で分かる状態 にしておくのが、最も実務的です。
よくある質問
Q1. 下請法はなくなったのですか?
なくなったわけではなく、2026 年 1 月 1 日に改正され、法律名・用語が見直されました。実務上は「取適法(中小受託取引適正化法)」として案内されています。規制の枠組みは続いており、むしろ従業員数基準の追加などで対象が広がっています。
Q2. 取適法とフリーランス新法、両方守らないといけませんか?
取引によっては 両方が関係します。委託側が取適法の規模要件を満たし、相手が個人・一人法人(特定受託事業者)の場合は、取適法のルールに加えてフリーランス新法独自の義務(ハラスメント対策など)も満たすのが安全です。
Q3. 相手が「従業員を雇っている法人」ならフリーランス新法は関係ない?
はい、その相手はフリーランス新法の「特定受託事業者」には当たりません。ただし、自社が取適法の規模要件を満たし、取引が取適法の対象となる委託取引に当たれば、取適法の対象 になり得ます。
Q4. 資本金が小さければ取適法は関係ないですか?
いいえ。改正後は資本金基準に加えて 従業員数基準(製造委託等 300 人・役務提供委託等 100 人)が新設され、いずれかに該当すれば対象です。「資本金が小さい=対象外」とは限らなくなりました。
Q5. 支払期日はどちらも 60 日以内ですか?
はい、いずれも 給付を受領した日から起算して 60 日以内のできる限り短い期間 が原則です。「月末締め・翌々月払い」だと超過するケースがある点は、両法に共通する注意点です。
まとめ:いまから整える 3 つのアクション
- 発注先を「特定受託事業者かどうか」「委託の種類」で棚卸しする(適用法の判定)
- 自社の規模要件(資本金・従業員数)を確認し、取適法の対象かを判定する
- 3 条書面・60 日支払を共通土台にしつつ、フリーランス新法独自のハラスメント対策・解除予告の準備をする
取適法(旧・下請法)とフリーランス新法は、「取引の公正」と「働く人の保護」という、目的の違う 2 つのレンズです。どちらか一方ではなく、自社の発注の実態に合わせて両方を視野に入れる ことが、これからの委託管理の前提になります。
こんなご相談を承っています
- 「うちの発注先が取適法・フリーランス新法のどちらに当たるか整理したい」
- 「業務委託契約書・発注書を両法に対応した内容に見直したい」
- 「kintone やスプレッドシートで委託先の法律判定・支払サイト管理を仕組み化したい」
デジタル労務ラボでは、業務委託契約の見直し、3 条書面テンプレ整備、発注フローの IT 化 まで、社労士エンジニアの視点でワンストップ支援しています。お気軽に 初回無料相談 をご活用ください。
関連記事
- フリーランス新法で中小企業の発注者が対応すべきこと|業務委託の 5 つの実務ポイント — 本記事の親記事。発注者に課される義務の全体像を解説しています。
- フリーランス新法対応の 3 条書面テンプレート|業務委託の類型別・記載例つきで解説 — そのまま使える 3 条書面のテンプレートと類型別の記載例です。
- 業務委託契約書で中小企業が注意すべき条項|偽装請負・知財・競業避止の落とし穴 — 基本契約側の論点。偽装請負・著作権帰属・解除予告を整理しています。
参考リンク