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フリーランス新法で中小企業の発注者が対応すべきこと|業務委託の5つの実務ポイント

2024年11月施行のフリーランス新法について、中小企業の発注者が押さえるべき取引条件の明示、60日以内の報酬支払、禁止行為、ハラスメント対策、解除予告を実務目線で解説します。

#フリーランス新法#業務委託#中小企業#労務DX

はじめに

「フリーランス新法って、フリーランス側を守る法律でしょ?うちは関係ないよね」――顧問先の経営者からよくいただく質問です。

結論からお伝えすると、中小企業も発注者として対応必須です。法律の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称フリーランス新法。2024年11月1日に施行されました。

実はこの法律、発注者側の義務がメインに整理されています。書面交付・支払期日・禁止行為・ハラスメント対策など、知らずに違反していると、公正取引委員会や厚生労働大臣からの指導・勧告・命令、そして社名公表のリスクまである法律です。

本記事では、社労士エンジニアの視点から、中小企業の発注者がいま押さえておくべき実務ポイントを 5 つに絞って解説します。

この記事でわかること

  • フリーランス新法が中小企業にも関係する理由
  • 業務委託契約で発注者に課される義務の全体像
  • 3 条書面・60 日支払・禁止行為の実務対応
  • フリーランスとの継続取引で必要な配慮・解除予告
  • 発注フローを IT で効率化するヒント

フリーランス新法の対象になる業務委託とは

フリーランス新法の理解で最初につまずきやすいのが、発注者側にも 2 つの区分がある点です。

「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」

区分 該当する事業者 主な義務
業務委託事業者 フリーランスに業務委託をするすべての事業者(個人・法人問わず) 取引条件の明示(3 条通知)
特定業務委託事業者 従業員を使用する個人、または役員が 2 名以上いる法人・従業員を使用する法人 上記に加え、報酬支払期日、禁止行為、ハラスメント対策など

ポイントは、**「従業員を使用していれば特定業務委託事業者に該当する」**ことです。中小企業の多くは特定業務委託事業者に区分され、より重い義務が課されます。

「特定受託事業者」とは

業務委託を受ける側、つまり保護対象となるフリーランスは、従業員を使用しない個人事業主、または代表者のみで従業員を使用しない法人が該当します。デザイナー、ライター、エンジニア、カメラマン、士業のスポット依頼など、フリーランスへの委託の多くが対象です。

義務がいつ発生するかの整理

特定業務委託事業者に該当する場合、取引の性質や期間によって、課される義務が段階的に増えていきます

取引の性質 主な義務
フリーランスへの業務委託すべて 取引条件の明示(3 条書面)
特定業務委託事業者が行う業務委託 報酬支払期日(60 日以内)、ハラスメント対策、募集情報を出す場合の的確表示
1 か月以上の業務委託 上記に加え、7 つの禁止行為
6 か月以上の業務委託 上記に加え、育児介護等への配慮、中途解除等の 30 日前予告・理由開示

自社の業務委託が「どこに位置するか」をまず棚卸しすることが、対応の第一歩です。

実務ポイント 1:取引条件の明示(3 条書面)で必要な 8 項目

法律の 3 条で定められている、取引条件の書面(または電磁的方法)での明示義務です。これは委託期間に関わらず、すべての発注で必要になります。

明示が必須となる主な事項は、以下の 8 項目です。

  1. 発注事業者・フリーランスの名称
  2. 業務委託をした日
  3. 業務の内容(給付内容)
  4. 給付を受領する日/役務提供を受ける期日
  5. 給付を受領する場所/役務提供を受ける場所
  6. 検査をする場合はその完了する期日
  7. 報酬の額および支払期日
  8. 現金以外で報酬を支払う場合はその支払方法

実務現場でよくある落とし穴は、「口頭やチャットで発注している案件」です。LINE、Slack、メールでのやりとりで仕事を依頼しているケースが、中小企業では非常に多い。これらは原則として 発注ごとに 3 条書面の交付が必要 です。

ただし、メールやチャットでも「電磁的方法」として認められるので、紙の契約書を毎回作る必要はありません。フォーマット化することで、運用負担を最小化できるのがポイントです。

IT 活用のヒント

社労士エンジニアとして推奨するのは、以下のような仕組み化です。

  • Google Forms または kintone で発注フォームを作る — 8 項目を埋めないと送信できないバリデーションをかける
  • 発注内容を自動で PDF 化し、メールで自動送付 — Zapier や GAS(Google Apps Script)で組める
  • クラウドサインや GMO サインなどの電子契約サービス — 3 条書面と電子署名を一気通貫で運用

「書面交付」と聞くと身構えがちですが、運用次第で発注のたびに数分で済む業務にできます。

実務ポイント 2:フリーランスへの報酬支払は 60 日以内が原則

特定業務委託事業者がフリーランスに業務委託をする場合、発注した物品等を受領した日から起算して 60 日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、報酬を支払う義務があります。期間要件はなく、単発の業務委託でも適用される点に注意が必要です。

ここで多くの中小企業がつまずくのが、「月末締め・翌々月末払い」という慣行です。たとえば4 月 20 日に納品を受けた場合、

  • 4 月末締め → 6 月末払い:4 月 20 日から 約 70 日後 で違反
  • 4 月末締め → 5 月末払い:41 日後でセーフ

つまり、月末締めの場合でも、翌月末払いに統一しないと違反リスクがあるケースが出てきます。

支払サイトの見直しは、自社のキャッシュフローと密接に絡むので一筋縄ではいきません。しかし、フリーランス取引だけ別ルールで運用することは現実的に可能です。経理部門と相談し、「業務委託契約マスター」を分けて管理することをおすすめします。

実務ポイント 3:1 か月以上の業務委託で禁止される 7 つの行為

1 か月以上の業務委託では、以下 7 項目の行為が禁止されています(法 5 条)。

  1. 受領拒否(フリーランスに責任のない返品・受領拒否)
  2. 報酬の減額(フリーランスに責任のない減額)
  3. 返品(フリーランスに責任のない返品)
  4. 買いたたき(通常の対価より著しく低い報酬の不当な決定)
  5. 購入・利用強制(指定する物・役務の購入を強制)
  6. 不当な経済上の利益の提供要請
  7. 不当な給付内容の変更・やり直し

下請法にも似た規制はありましたが、下請法は資本金要件などによって対象が限定されており、これまで下請法の規制対象外だった中小企業も少なくありませんでした。フリーランス新法では、資本金規模ではなく、従業員を使用しているか、法人の役員構成がどうなっているかなどによって義務の範囲が決まるため、これまで下請法をあまり意識してこなかった中小企業でも対応が必要になります。

特にトラブルになりやすいのが「やり直しの強要」です。発注時に成果物の要件を曖昧にしておき、後から「思っていたのと違う」と差し戻しを繰り返すケース。これは禁止行為に該当する可能性が高い。

3 条書面で業務内容を具体的に書いておくことが、結果的に自社を守ることにもつながります。

自社の発注フローで、3 条書面に必要な項目が漏れていないか不安な方は、業務委託契約書・発注書のチェックも初回無料相談でお受けしています。

実務ポイント 4:フリーランス新法におけるハラスメント対策

フリーランス新法は、特定業務委託事業者に対して、フリーランスの就業環境を害するハラスメントを防止するための体制整備義務を課しています。1 か月以上・6 か月以上といった期間要件とは別に、特定業務委託事業者が行う業務委託について問題になります。

具体的に求められているのは、以下の 3 点です。

  1. ハラスメント防止方針の明確化と周知・啓発
  2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(相談窓口設置)
  3. ハラスメントが発生した場合の事後対応(事実関係の迅速な確認、被害者ケア、再発防止)

「うちは委託先のフリーランスにもハラスメント窓口を案内する必要がある」――この点を正しく認識している中小企業は、まだ多くありません。

社内の従業員向けハラスメント窓口がすでにある場合、「フリーランスからの相談も受け付ける」と明示するだけでも対応可能です。窓口運営は社労士事務所や弁護士事務所への外部委託も増えています。

実務ポイント 5:6 か月以上の業務委託で必要な「配慮義務」と「30 日前予告」

業務委託期間が6 か月以上になると、さらに以下の義務が加わります。

  • 育児介護等への配慮義務:妊娠・出産・育児・介護とフリーランスの業務の両立に必要な配慮を求められた場合、必要な配慮をする
  • 中途解除等の事前予告:契約の解除や不更新をする場合、原則として 30 日前までに書面・FAX・電子メール等で予告する。フリーランスから請求があった場合は理由を開示する

「業務委託は切ろうと思えばいつでも切れる」という従来の感覚は通用しません。特に長期間にわたって特定のフリーランスに依存している場合は要注意です。

社内的には、「業務委託先一覧」を作成し、取引開始日と現在までの継続月数を可視化することをおすすめします。Google スプレッドシートでも十分管理できますし、kintone なら経過月数の自動計算もできます。

補足:フリーランスを募集する場合は、募集情報の的確表示にも注意

フリーランス新法は、特定業務委託事業者がフリーランスを募集する際の広告・求人ページ・SNS 投稿の表示にもルールを定めています。

具体的には、

  • 虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしないこと
  • 募集情報を正確かつ最新の内容に保つこと

が求められています。報酬額を実際より高く見せる、あくまで一例の金額を確定報酬のように見せる、募集終了後も古い情報を掲載し続ける、といった表示は問題になる可能性があります。

クラウドソーシングサイトや自社サイトでフリーランス募集をしている企業は、掲載情報の鮮度管理も運用フローに組み込んでおきましょう。

まとめ:いまからできる 5 つのアクション

最後に、本記事で解説した内容を中小企業の発注者が今日から始められるアクションにまとめます。

  1. 現在の業務委託先を一覧化し、取引期間(単発/1 か月以上/6 か月以上)で分類する
  2. 3 条書面のフォーマット(電子も可)を整備し、発注フローに組み込む
  3. フリーランス取引の支払サイトを「60 日以内」に整理する
  4. ハラスメント相談窓口について、フリーランスにも利用可能な旨を案内する
  5. 6 か月以上の継続取引先について、解除予告・配慮義務の準備をしておく

法律はできた以上、知らなかったでは済まされません。フリーランス新法対応は、単に契約書を 1 枚作って終わりではありません。発注、検収、支払、相談対応、契約更新・終了までを一連の業務フローとして整えることが重要です。

デジタル労務ラボでは、業務委託契約書の見直し、3 条書面のテンプレ作成、社内ワークフローの IT 化まで、社労士エンジニアの視点でワンストップでご支援しています。「うちの委託先、対応できているか不安」という方は、初回無料相談をご利用ください。

なお、フリーランス新法に対応した「3 条書面テンプレートと記載例」については、別記事で解説予定です。


参考リンク