管理職の労働時間、把握していますか|「管理職になりたくない」76.7%の裏で、法律が会社に求めていること
管理監督者でも、労働時間の状況の把握は会社の義務です(労働安全衛生法66条の8の3)。「管理職になりたくない」76.7%という調査を入口に、管理監督者の誤解されやすい点と、勤怠データから管理職の長時間労働を見つける手順を社労士が解説します。
はじめに|「管理職だから労働時間は見なくていい」は誤解です
「うちの管理職は管理監督者だから、残業は関係ない」。経営者や総務の方から、このような言葉を聞くことがあります。たしかに、労働基準法上の管理監督者には労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。しかし、管理監督者であっても、会社が労働時間の状況を把握することは法律上の義務です(労働安全衛生法66条の8の3)。本記事では、調査の数字を入口に法律が求めていることを整理し、勤怠データから「管理職だけ長時間労働が突出している部署」を見つける手順をまとめます。
調査の数字|「管理職になりたくない」76.7%
アデコ株式会社が2026年9月2日に公表した「管理職という仕事に関する調査」(アデコ株式会社調べ。全国の20〜60代の会社員1,400人、一般社員800人・管理職600人。調査期間2026年3月19日〜24日)では、一般社員の76.7%が「将来管理職になりたくない」(「どちらかといえば」を含む公表値)と回答しています。
なりたくない理由の上位(なりたくないと答えた613人)は「ストレスが大きそう」78.0%、「責任が増えそう」52.7%、「勤務時間が長くなりそう」46.3%。「なってもよいと思える条件」(同613人)は「給与・賞与の大幅な増額」69.7%、「労働時間の適切な管理と削減」42.1%、「役職に応じたインセンティブの付与」35.2%でした。
「勤務時間が長くなりそう」という不安に対して、管理職の労働時間を把握し長時間労働を改善することは、不安を和らげる一助になると考えられます。そして労働時間の把握は、人材確保の話である前に、法律が会社に求めていることです。
法律が求めていること
管理監督者でも「労働時間の状況の把握」は義務です
労働安全衛生法66条の8の3は、医師による面接指導を実施するため、事業者が厚生労働省令で定める方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと定めています。条文で除かれているのは高度プロフェッショナル制度の適用者だけで、管理監督者も裁量労働制の適用者も対象です。働き方改革関連法による改正で2019年4月1日に施行され、中小企業への猶予はありません。
「労働時間の状況」とは、労働者がどの時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するもので、賃金計算上の労働時間と当然に一致するものではありません。把握の方法は、タイムカードやパソコン等の使用時間の記録などの客観的な方法が原則で(労働安全衛生規則52条の7の3第1項)、記録は3年間保存します(同条2項)。賃金台帳の労働時間数で代える扱いは、管理監督者等やみなし労働時間制・裁量労働制の適用者には認められていません(平成30年12月28日基発1228第16号)。管理職については、打刻やPCログなどで労働日ごとの出退勤時刻を記録しておく必要があります。
月80時間超は、管理職にも医師の面接指導があります
把握した労働時間の状況から、毎月1回以上、決まった期日に、休憩を除く労働時間が週40時間を超えた分を算定し、月80時間を超えた人には、その時間数を速やかに本人に通知します(労働安全衛生規則52条の2)。疲労の蓄積が認められ本人から申出があれば、遅滞なく医師による面接指導を行う義務があります(労働安全衛生法66条の8、同規則52条の3)。この仕組みは管理監督者にも適用されます。
厚生労働省労働基準局の資料によると、令和4年の労働安全衛生調査で「1か月の時間外・休日労働が80時間を超えた月があった」と答えた割合は、課長相当職以上の管理的職業従事者で4.1%と、全職種平均2.0%の約2倍でした。調査上の区分は法律上の管理監督者と同じではありませんが、管理職の層は長時間労働への注意が必要だと読めます。
「管理監督者=労働時間の規定がすべて外れる」ではありません
労働基準法41条2号で適用が除外されるのは、労働時間・休憩・休日に関する規定です。深夜(22時〜翌5時)の割増賃金と年次有給休暇は、管理監督者にも適用されます。
また、管理監督者に当たるかどうかは、役職名ではなく実態で判断されます。厚生労働省のリーフレットは、職務内容・責任と権限、勤務態様、賃金等の待遇から総合的に判断するとしています。該当しない「名ばかり管理職」であれば、時間外・休日の割増賃金の支払いが必要です。
「労働時間を把握すると管理監督者でなくなるのではないか」と心配される方もいます。多店舗展開する小売業・飲食業の店長等についての厚生労働省の通達(平成20年9月9日基発第0909001号)は、健康障害防止や深夜割増賃金の支払いの観点から労働時間の把握や管理を受けていても、管理監督者性を否定する要素にはならないと示しています。把握を行ったことだけで管理監督者性が否定されるものではありません。
勤怠データで見る手順|「管理職だけ突出している部署」の見つけ方
筆者はITエンジニアとしても働いており、勤怠データの集計をよく相談されます。多くの勤怠システムは月次データをCSVなどで出力できます。そこから次の手順で「管理職の長時間労働」を見える化できます。
1. 1人1か月1行の表にする
列は「社員ID」「部署」「役職」「管理監督者該当(有/無)」「月の把握時間(休憩を除く。在宅勤務・社外業務を含む)」「面接指導判定用の超過時間」「深夜帯の時間」「打刻漏れ日数」です。「面接指導判定用の超過時間」は、把握時間から「暦日数÷7×40時間」を引いた値で、管理監督者も一般の従業員も同じ基準で比べるための列です。賃金計算用の時間外労働時間とは別物です。休憩を除けない事情がある場合は、休憩を含めた把握時間で判断する取扱いになります。
2. しきい値で色を付ける
社内管理の目安として3段階に分けます。45時間超は「注意」、80時間超は「時間数の本人通知(法定義務)と、面接指導の申出方法の案内」、100時間超は「業務の見直しを急ぐ」。ただし80時間を超えた時点で業務の見直しも始めます。深夜帯の時間は、管理監督者でも割増賃金の対象になるため別に確認します。
3. 部署×区分で並べる
部署ごとに、管理監督者と一般の「超過時間」の平均・最大値・対象人数・80時間超の人数を並べます。見るべきは2つのパターンです。
- 管理職の平均が一般の平均を大きく上回る部署。部下の残業を抑えた分が管理職に寄っている可能性があります
- 管理職1人だけが最大値で突出している部署。業務の属人化や人員不足の可能性があります
4. 自己申告とのずれを確認する
PCのログオン・ログオフ時刻と打刻のずれが大きい人は、実態と記録が合っていない可能性があります。厚生労働省のリーフレットも、ずれがあるときは理由を本人に確認し、未申告の労働があれば時間数を補正し、なかった場合もその確認結果を記録するよう求めています。
5. 毎月同じ期日に見て、対応も記録する
労働安全衛生規則52条の2は、月1回以上、一定の期日を定めて算定することを求めています。給与計算の締めにあわせて同じ表を毎月更新し、80時間超の人には「通知日・通知した時間数・申出の有無・面接指導の実施日・医師の意見を踏まえた対応」を書き添えておくと、後から追えます。労働日ごとの出退勤記録(3年間保存)と面接指導の結果の記録(5年間保存。同規則52条の6)は、集計表とは別に保存します。
会社が確認すること
- 管理職の労働時間の状況を客観的な方法で記録しているか。「管理職は打刻しない」運用になっていないか
- 記録を3年間保存しているか。勤怠システムの保存期間の設定も確認します
- 月80時間超の管理職に通知と面接指導の案内をしているか。対象者を毎月抜き出す仕組みがあるか
- 深夜の割増賃金と年休が管理職にも適用されているか
- 管理監督者としている人の実態(権限・勤務態様・待遇)が役職名に見合っているか
よくある質問
Q. 管理職にタイムカードを打たせると、管理監督者ではなくなりますか?
健康管理や深夜割増賃金の計算のための把握は、それ自体は管理監督者性を否定する要素にならないとされています。一方、遅刻・早退で減給や人事評価のマイナスをする「厳格な時間管理」は否定要素になりますので、把握と評価は切り分けておくことをおすすめします。
Q. 管理監督者には残業代がないのに、なぜ時間を集計するのですか?
労働安全衛生法に基づく集計は健康確保と面接指導のためで、月80時間超の通知と、疲労の蓄積が認められ申出があった場合の面接指導は管理監督者にも適用されます。これとは別に、深夜割増賃金の計算のため深夜の労働時間も把握する必要があります。
まとめ
- 管理監督者でも、労働時間の状況の把握は会社の義務です(労働安全衛生法66条の8の3。2019年4月施行、企業規模を問いません)
- 把握は打刻・PCログなどの客観的な方法が原則で、記録は3年間保存します
- 月80時間超の管理職には本人への通知と、申出による医師の面接指導の仕組みが適用されます
- 労働基準法41条2号で外れるのは労働時間・休憩・休日の規定で、深夜割増と年休は適用されます
- 勤怠データを「部署×区分」で毎月並べれば、管理職だけが突出している可能性のある部署を抽出できます
管理職の勤怠データの集計や、月80時間超の対象者を毎月自動で抜き出す仕組みづくりのご相談は、お問い合わせからお気軽にどうぞ。
出典
- アデコ株式会社「日本全国の一般社員と管理職1,400人を対象にした、管理職という仕事に関する調査」(2026年9月2日、PR TIMES)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001087.000001264.html
- 労働安全衛生法66条の8・66条の8の3、労働安全衛生規則52条の2・52条の3・52条の6・52条の7の3、労働基準法41条(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について」(平成30年12月28日基発1228第16号)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3843&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省労働基準局「管理監督者の労働時間データについて」(資料2)https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001266845.pdf
- 厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf
- 厚生労働省 青森労働局「働き方改革関連法が施行されています!」https://jsite.mhlw.go.jp/aomori-roudoukyoku/newpage_00052.html
- 厚生労働省 静岡労働局(浜松労働基準監督署)リーフレット「労働時間の状況の把握義務」https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/content/contents/001511075.pdf
- 厚生労働省「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r04-46-50b.html