社会保険の適用拡大|扶養内パートへの「加入のお知らせ」文書ひな形と対象者チェックリスト(106万円の壁撤廃)
社会保険の適用拡大で新たに加入対象となる扶養内パート・アルバイトに、会社からどう説明するか。そのまま調整して使える「社会保険加入のお知らせ・説明文書」のひな形、対象者チェックリスト、面談での想定問答を、社労士エンジニアが実務目線でまとめました。106万円の壁撤廃・企業規模要件の段階的撤廃への社内準備に。
はじめに
「適用拡大で誰が対象になるかは分かった。でも、そのパートさんに“来月から社会保険の加入対象になります”とどう伝えればいいのか?」――施行のスケジュールを理解した次に、多くの中小企業が止まるのがこの一歩です。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大は、「106 万円の壁」(賃金要件)の撤廃と、企業規模要件(被保険者 51 人以上)の段階的な撤廃により、これまで対象外だった小規模な事業所にも順次広がっていきます。制度の全体像とスケジュールは、親記事 社会保険の適用拡大はいつから?106万円の壁撤廃と50人以下の中小企業の準備 にまとめています。本記事はその「現場でどう伝えるか・何を配るか」編です。
現場でいちばん骨が折れるのは、法律の理解そのものより、扶養の範囲を意識して働いてきたパート・アルバイトに、加入の必要性や手取りへの影響、受けられる保障を正しく理解してもらい、不安を減らすコミュニケーションです。天引きが増える話でもあるため、いきなり「決まったので入ってください」だけでは、不信感や離職につながりかねません。
本記事では、中小企業がそのまま自社向けに調整して使える 「社会保険加入のお知らせ・説明文書」のひな形、対象者チェックリスト、そして 個別面談での想定問答 を、社労士エンジニアの視点で用意しました。コピーして日付と数字を差し替えれば、そのまま社内配布用のたたき台になります。
なお、施行日や要件には政令で定まる部分・経過措置があり、記載内容は原則です。個別の判断や最新の取り扱いは、必ず厚生労働省・日本年金機構の公表資料や社労士にご確認ください。
この記事でわかること
- 適用拡大で対象になる人の加入要件のおさらい(詳細は親記事へ)
- 自社の対象者を洗い出す 対象者チェックリスト(判定フロー)
- 扶養内パートへ配る 「社会保険加入のお知らせ・説明文書」のひな形(記載例つき)
- 個別面談でよく聞かれる質問への 想定問答(トークの型)
- 会社側が施行前に済ませておく 準備チェックリスト
- 対象になりそうな人を勤怠・給与クラウドで 自動抽出する ヒント
【前提】適用拡大で「誰が」対象になるのか
説明文書を作る前に、対象者の考え方だけ最小限に確認します。
まず最初に確認したいのが「4分の3基準」です。一般社員の1週の所定労働時間と1月の所定労働日数の両方が4分の3以上である場合は、以下の短時間労働者の要件とは別に、社会保険の加入対象になります(学生でも、企業規模にかかわらず対象です)。以下で扱うのは、この4分の3基準を満たさないパート・アルバイトの話です。
4分の3基準に当てはまらない短時間労働者が社会保険に加入するかどうかは、主に次の要件で判断します(原則として、下記をすべて満たす場合に加入対象)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 労働時間 | 週の所定労働時間が 20 時間以上 |
| ② 賃金 | 所定内賃金が月額 8.8 万円以上(年収約 106 万円。いわゆる「106 万円の壁」)※撤廃予定 |
| ③ 雇用見込み | 2 か月を超える 雇用の見込みがある |
| ④ 学生 | 学生でない(一部例外あり) |
| ⑤ 企業規模 | 勤務先の企業等が、その時点の 企業規模要件を満たしている(現行 51 人以上/段階的に引き下げ) |
※②の月額 8.8 万円は「所定内賃金」で判定します。賞与、時間外・休日・深夜労働の割増賃金、通勤手当、家族手当、精皆勤手当などは原則として含みません。 ※⑤の被保険者数は、法人の場合は同一法人番号に属するすべての適用事業所の被保険者数を合算します(個人事業所は適用事業所単位)。現行の51人要件は、短時間労働者を除く厚生年金保険の被保険者数で判定します。
今回の適用拡大は、このうち ②賃金要件の撤廃(106 万円の壁の撤廃)と、⑤企業規模要件の段階的撤廃 によって、対象者を広げるものです。②が撤廃されると、他の要件を満たす人は月 8.8 万円未満でも加入対象になり得ます。
※最低賃金法に基づく最低賃金の減額特例の対象者については、2026 年 10 月以降も、月額賃金が 8.8 万円未満の場合は原則として加入対象外です(申出による任意加入は可能)。
- 賃金要件(②)の撤廃時期は、最低賃金の全国加重平均が一定水準に達することを見極めたうえで政令で定める日とされ、日本年金機構は 2026 年 10 月の撤廃を予定として案内しています(正式な施行日は政令で確認)。
- 企業規模要件(⑤)は、2027 年 10 月に 36 人以上、2029 年 10 月に 21 人以上、2032 年 10 月に 11 人以上へと段階的に引き下げられ、2035 年 10 月に撤廃される方向です。
自社が「いつ・何人・いくら」対象になるかの具体的な見積もりは、親記事 社会保険の適用拡大はいつから? の「50 人以下の会社はいつから対象になる?」の章をご覧ください。ここから先は、対象者が確定した後の伝え方に進みます。
ステップ1:自社の対象者を洗い出す(対象者チェックリスト)
まず、誰に説明文書を渡すのかを確定させます。パート・アルバイト一人ひとりについて、次のチェックリストで判定してください。
対象者判定チェックリスト(従業員1人ごとに確認)
ステップ0:4分の3基準を確認(一般社員と比べ、1週の所定労働時間と1月の所定労働日数の両方が4分の3以上か)
- 4分の3基準に該当する → 社会保険の加入対象(学生・企業規模は不問。ここで対象確定)
- 4分の3基準に該当しない → 以下の①〜⑤で判定する
**(4分の3基準に該当しない短時間労働者について)①〜⑤がすべて「はい」なら加入対象(または今後の適用拡大で対象になる見込み)**です。
- ① 週の 所定労働時間が 20 時間以上 である(実労働時間ではなく、雇用契約・シフトで定めた所定労働時間で判断するのが原則)
- ② 所定内賃金が月額 8.8 万円以上 である(賞与・割増賃金・通勤手当・家族手当などは含まない。※賃金要件が撤廃されると、この金額未満でも対象になり得ます。撤廃後は原則として「①③④+企業規模」で判定。ただし最低賃金の減額特例対象者には例外があります)
- ③ 2 か月を超えて 雇用する見込みがある
- ④ 学生ではない(休学中・夜間・通信制など一部例外あり)
- ⑤ 自社(法人は同一法人番号の全適用事業所を合算)が、その時点の企業規模要件を満たしている(現行 51 人以上/2027 年 10 月以降は段階的に引き下げ)
判定でつまずきやすいのが ① です。契約上の所定労働時間が週 20 時間未満でも、実労働時間が 2 か月連続して週 20 時間以上となり、その後も続くと見込まれる場合は、3 か月目から加入対象になります。名目上だけ勤務時間を 20 時間未満にしても、実態が伴っていなければ加入対象になり得るため、契約と実態のズレはこの機会に棚卸ししておくと安全です。
洗い出しの実務手順
- パート・アルバイトの一覧を作る(氏名・週所定労働時間・所定内賃金(加入要件の判定用)・報酬見込額(保険料試算用)・雇用契約期間・学生か否か)。※8.8万円要件を判定する「所定内賃金」と、標準報酬月額を決める際の「報酬」は範囲が異なります。通勤手当などは前者には原則含まれませんが、後者には含まれます。
- 上記チェックリストで 加入対象 と 対象になりそう(ボーダー) に仕分ける。
- 対象者ごとに、増える会社負担(保険料の労使折半分)と本人の天引き見込みを試算する。
- 説明文書と面談の対象者リストを確定する。
「一覧化して条件で仕分ける」作業は、後述するとおりクラウドで半自動化できます。まずは対象者を確定させることが、説明のスタート地点です。
ステップ2:扶養内パートへの「社会保険加入のお知らせ・説明文書」ひな形
ここが本記事の中心です。対象になったパート・アルバイトに配る、社会保険加入のお知らせ・説明文書のひな形です。【 】の部分を自社の情報に差し替えて使ってください。デメリット(天引き)だけでなく、**メリット(将来の保障)**をあわせて伝えるのが、理解と安心につなげるポイントです。
記載例(このまま調整して使えます)
【発行日:____年__月__日】
【従業員氏名】 様
【会社名】
代表者/人事担当 【担当者名】
社会保険(健康保険・厚生年金保険)ご加入のお知らせとご説明
いつも業務にご尽力いただき、ありがとうございます。
このたびの法改正(社会保険の適用拡大)により、【____年__月】から、
【従業員氏名】さんは社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入対象と
なる見込みです。つきましては、加入の内容と、加入によって受けられる
保障について、あらかじめご案内いたします。
■ なぜ加入対象になるのか
法改正により、これまで「週20時間以上・所定内賃金が月額8.8万円以上・
勤務先の規模」などで判断していた加入の基準が広がり、
より多くの短時間勤務の方が社会保険の対象になります。ご本人の働き方が
大きく変わらなくても、制度の変更により対象になるものです。
■ いつから加入になるか
【____年__月__日】を予定しています(正式な時期が変わる場合は
あらためてご案内します)。
■ 保険料について
健康保険・厚生年金保険の保険料は、会社と本人で半分ずつ負担します
(労使折半)。ご本人負担分は、毎月のお給料から天引きとなります。
【____】さんの場合、月額のご本人負担はおおよそ【____円】程度を
見込んでいます(標準報酬月額や料率により変動します。年齢や加入する
健康保険によっては、介護保険料や子ども・子育て支援金を含みます)。
初回の控除予定:【__月支給給与から】
■ 加入によって受けられる主な保障(メリット)
・将来の年金が増えます(老齢年金に厚生年金部分が上乗せされます)
・万一のとき、障害年金・遺族年金の保障が手厚くなります
・私傷病で働けないとき、傷病手当金を受けられる場合があります
・出産で休むとき、出産手当金を受けられる場合があります
・保険料は会社が半分負担します
■ 配偶者の健康保険の被扶養者・国民年金第3号被保険者について
現在、配偶者の扶養に入っている場合、社会保険に加入するとご自身が
被保険者になります。なお「扶養」には、①社会保険上の扶養、②税法上
の配偶者控除・配偶者特別控除、③配偶者の勤務先の家族手当・配偶者手当
があり、それぞれ別の制度です。社会保険に加入しても、税法上の扱いは
別途判断され、家族手当は配偶者の勤務先の要件によります。手取りや
働き方への影響が気になる方は、下記の個別面談でご説明します。
■ 今後の進め方
ご不明な点やご希望(勤務時間の相談を含む)があれば、【____月__日】
までに【担当者名(連絡先)】までお知らせください。ご希望の方には
個別に面談の時間を設けます。
ご不安な点はできる限り丁寧にご説明します。安心して働き続けて
いただけるよう、会社としてサポートしてまいります。
以 上
ひな形を使うときの4つの注意
- 数字は必ず自社で試算した値に差し替える。 本人負担のおおよその額を空欄のまま配ると、かえって不安を招きます。標準報酬月額の目安から概算を入れておきましょう。
- 「決定通知」ではなく「案内+対話の入口」にする。 一方的な通知に見えると反発が生まれます。ここでの面談は加入の要否を本人と交渉する場ではなく、制度内容や手取りへの影響、今後の働き方を説明・相談する機会です。相談の窓口を必ずセットにしてください。
- 就業調整を希望する人への配慮を用意しておく。 「扶養内に留まりたい」という希望が出ることは想定されます。勤務時間の調整余地や、加入した場合の手取りシミュレーションを、面談で示せるよう準備しておくと親切です。
- 「事前案内」と「加入決定通知」を使い分ける。 このひな形は「加入対象となる見込みです」「予定しています」という事前案内文です。正式に対象者と加入日が確定した後に配る場合は、「加入対象となる見込みです」→「加入対象となります」、「予定しています」→「加入日は__月__日です」に書き換えてください。
ステップ3:面談での「想定問答」(トークの型)
説明文書を渡した後は、個別面談で不安を受け止めます。よく出る質問と、答え方の型です。断定を避け、「原則こうです・例外もあるので確認します」の姿勢を保つのが安全です。
Q. 手取りが減るのは困ります。入りたくないのですが。
A. 加入は法律上の基準で決まるため、原則として選べるものではありません。今後の働き方についてご希望がある場合は、契約上の勤務時間と実際の勤務状況の両方を踏まえて相談できます。ただし、契約上は週20時間未満でも、実態として週20時間以上の勤務が続く場合には加入対象となることがあります。あわせて、加入で増える将来の年金や、病気・出産のときの保障もご説明させてください。
Q. 配偶者の扶養から外れると、何が変わりますか。
A. ご自身が健康保険・厚生年金の被保険者になります。保険料のご負担は発生しますが、将来の年金が増え、傷病手当金など受けられる保障が広がります。世帯全体での手取りへの影響は、個別にシミュレーションしてご説明します。
Q. 税金の扶養や、配偶者の勤務先の家族手当もなくなりますか。
A. 社会保険上の扶養、税法上の配偶者控除、配偶者の勤務先の家族手当は、それぞれ別の制度です。社会保険に加入しても、税法上の扱いは年間収入などにより別途判断されます。家族手当については、配偶者の勤務先の支給要件をご確認ください。
Q. 保険料はいくら引かれますか。
A. 標準報酬月額と料率で決まり、会社と半分ずつ負担します。おおよその目安はお知らせに記載したとおりですが、確定額は加入手続き後にあらためてお伝えします。
Q. いつから引かれますか。
A. 社会保険料は加入した月の分から発生します。当社では【__月分の保険料を__月支給給与から】控除する予定です。給与の締日や控除方法によって見え方が異なるため、具体的な控除開始月は書面でご案内します。
ポイントは、「減る話(保険料)」と「増える話(保障)」を必ずセットで伝えることです。片方だけだと、納得は得られにくくなります。
会社側の準備チェックリスト(施行前にやること)
説明と並行して、会社側の事務も進めます。
- パート・アルバイトの 週所定労働時間・所定内賃金・保険料試算用の報酬見込額・雇用契約期間 を一覧化した
- 対象者・ボーダー層を 仕分け した(ステップ1のチェックリスト)
- 増える 社会保険料(会社負担分)を試算 し、人件費計画に織り込んだ
- 対象者へ配る お知らせ・説明文書(本記事ひな形)を自社向けに調整した
- 個別面談の枠と、手取りシミュレーションの準備をした
- 契約と実態がズレている人の 雇用契約書・シフトの見直しを検討した
- 加入手続き(資格取得届など)の 段取りと期限を確認した
- 利用できる 支援制度(助成金等)の最新の取り扱いを確認した(要件は時期により変わるため、厚労省・社労士に確認)
加入対象となる方を適切に加入させることは、健康保険法・厚生年金保険法上の事業主の義務です。対象者の把握と手続きが漏れると、後から加入手続きが必要になるなどの実務負担が生じ得ます。「小さいから」「本人が希望しないから」で判断せず、要件に沿って進めるのが原則です。
社労士エンジニアの視点:加入候補者をクラウドで「自動抽出する」
ここからは、社労士エンジニアとしての視点です。適用拡大対応でいちばん面倒なのは、「誰が加入対象になるのか」を正確に把握し続けることです。週の所定労働時間・所定内賃金・雇用見込みは人によって異なり、シフトや契約が変われば対象者も変わります。紙や手作業の Excel で管理すると、加入漏れ・手続き遅れのリスクが高まります。
この「条件に合う人を機械的に拾う」処理は、IT がもっとも得意とする領域です。勤怠管理と給与計算のクラウドを連携させ、仕組みで回すのがおすすめです。
- 雇用契約・シフトから「加入対象になりそうな候補者を自動抽出」し、担当者にアラート(週所定20時間以上などで機械的に候補を拾う。4分の3基準・学生の例外・契約更新などがあるため、最終的な加入判定は人が確認する前提)
- 勤怠実績とのズレをアラート(契約は 20 時間未満でも実態が超えていないか)
- 給与データと突合して本人負担・会社負担を試算(説明文書の数字づくりに直結)
- 被保険者数のカウントで、企業規模要件の引き下げに近づいたら気づける
給与計算のクラウド化の考え方は 中小企業がいま給与計算をクラウド化すべき3つの理由、労務全般の DX の進め方は 労務をDXする最初の一歩 で解説しています。対象者の抽出から説明文書の数字づくりまでを、データで一気通貫にしておくと、段階的な制度変更にも慌てず対応できます。
なお、社会保険の適用拡大と同じ 2026 年 10 月 には、カスタマーハラスメント対策の義務化など、労務まわりの大型改正が重なります。「10 月に向けて社内で何を準備するか」をまとめて棚卸ししたい方は、2026年10月カスハラ対策義務化|中小企業がやるべき相談窓口・規程・記録管理 もあわせてご確認ください。
まとめ
- 社会保険の適用拡大では、対象者を洗い出した後の 「現場への伝え方」 が実務の山場になります。
- まず 対象者チェックリスト で加入対象を確定し、お知らせ・説明文書のひな形 を自社向けに調整して配布しましょう。
- 説明では、保険料(減る話)と将来の保障(増える話)を必ずセットで伝えると、理解と安心につながります。
- 想定問答 を準備し、就業調整を希望する人には手取りシミュレーションで丁寧に応じましょう。
- 加入候補者の抽出と保険料の試算は、勤怠・給与クラウドで半自動化しておくと(最終判定は人が確認)、段階的な制度変更にも対応しやすくなります。
- 施行日・要件には政令で定まる部分や経過措置があります。最新の取り扱いは厚労省・日本年金機構・社労士にご確認ください。
当事務所では、社会保険の適用拡大に向けて、次のような支援が可能です。
- パート・アルバイトの 加入対象者チェック
- 企業規模要件に 該当する時期の確認
- 社会保険料の 会社負担額・本人負担額の試算
- 扶養内パートへの説明資料・お知らせ文 の作成
- 勤怠・給与クラウドを使った 対象者管理の仕組み化
「うちの会社はいつから・誰が対象になるのか知りたい」「パートさんへの説明の仕方を相談したい」という段階でも構いません。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
参考リンク