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改正育児・介護休業法、中小企業が必ず押さえるべき6つの実務ポイント

2025年4月・10月に段階施行された改正育児・介護休業法。社員数に関わらず全企業が対象です。中小企業が見落としがちな就業規則の修正、個別周知・意向聴取、柔軟な働き方の措置、介護離職防止の対応まで実務目線で解説します。

#育児介護休業法#法改正#就業規則#中小企業

はじめに

2025年4月、そして同年10月に段階施行された改正育児・介護休業法。2025年4月施行分はすでに1年が経過し、2025年10月施行分についても対応状況の確認が必要な時期 に入っています。

「うちは育休を取りたい人がいないから大丈夫」と考えている中小企業の経営者の方、要注意です。今回の改正には、対象者の有無にかかわらず、すべての事業主が確認すべき項目 が含まれています。

本記事では、中小企業が今すぐ対応すべき6つの実務ポイントを、優先順位の高い順に整理します。

ポイント1:就業規則・育児介護休業規程の修正は完了していますか?

最も基本的かつ、もっとも放置されがちな対応です。

改正法の施行に合わせて、以下の項目を就業規則または育児介護休業規程に反映する必要があります。

  • 子の看護休暇の対象拡大(小学校3年生修了までに延長、対象事由に学級閉鎖・入園式等を追加)
  • 介護休暇の取得要件の緩和(労使協定による継続雇用6か月未満の除外規定が撤廃)
  • 残業免除(所定外労働の制限)の対象拡大(小学校就学前の子を養育する労働者まで)
  • 短時間勤務制度(3歳未満の子を養育する労働者対象)の代替措置にテレワークを追加

規程を修正していない場合、労働局の調査・指導や従業員とのトラブル時に指摘されやすい項目 です。古い規程のまま運用していると、社員から「規程と運用が違う」とクレームが入った際に紛争化するリスクもあります。

💡 ITに強い社労士の視点

規程の修正は紙のWord文書ではなく、Notionや社内Wikiで管理+バージョン管理(Gitなど)すると、いつ・誰が・何を変えたかが追跡できて便利です。

ポイント2:妊娠・出産等の申出時の「個別周知・意向確認」と「個別の意向聴取・配慮」

2025年改正で実務負担が増えた領域です。ここは2つのレベルに分けて整理する必要があります。

(1) 個別周知・意向確認(2022年改正から継続)

労働者本人または配偶者が妊娠・出産したと申し出た時点で、事業主は 書面交付・面談・FAX・メール等のいずれか で以下を周知し、休業取得の意向を確認しなければなりません。

  • 育児休業に関する制度
  • 育児休業の申出先
  • 育児休業給付に関する内容
  • 育児休業期間中の社会保険料の取扱い

(2) 個別の意向聴取・配慮(2025年10月施行で追加)

既存の個別周知・意向確認に加え、2025年改正では、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮 が新たに求められるようになりました。具体的には、子が3歳になるまでの適切な時期に、勤務時間帯・勤務地・両立支援制度の利用期間等についての意向を聴取し、その意向に配慮する義務が生じます。

「制度があるのは知っているはずだから言わなくていい」は通用しません。周知・聴取の記録を残していないと、後日トラブルになった際に証明できません。

実務的なおすすめ運用

  1. 妊娠・出産の申出を受けたら、定型のメールテンプレートを送付
  2. 1on1面談で意向確認、議事録を残す
  3. 子が3歳になる前の適切なタイミングで、改めて意向聴取の面談を実施
  4. クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox等)に時系列で保管

定型メールテンプレートと面談シートを一度作っておけば、毎回ゼロから書く必要はありません。

ポイント3:3歳〜小学校就学前の子を持つ労働者への「柔軟な働き方を実現する措置」

2025年10月施行分の中で、中小企業の対応がもっとも遅れているのがここです。

3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、以下から 2つ以上を選択して措置を講じる義務 があります。

  • 始業時刻等の変更(フレックスタイム制、時差出勤)
  • テレワーク等(月10日以上利用可能)
  • 保育施設の設置運営等
  • 養育両立支援休暇(年10日以上)
  • 短時間勤務制度

選択した措置の中から、労働者本人が1つを選んで利用できる仕組みを作ることが求められます。

実務上の重要ポイント:意見聴取の手続き

事業主がどの措置を導入するかを選択する際には、過半数労働組合または過半数代表者から意見聴取の機会を設ける必要があります。 この手続きを省略すると、後の労働局調査で指摘される可能性があります。意見聴取の議事録(または書面)は必ず残してください。

よくある誤解

「うちは小さい会社だからフレックスは無理」「テレワークできる業務がない」という声をよく聞きますが、「養育両立支援休暇」を年10日付与する のが最もハードルが低い選択肢です。年次有給休暇とは別枠で取得できる休暇を新設し、就業規則に明記すれば対応できます。

ポイント4:育児休業等取得状況の公表(従業員数による段階適用)

従業員数1,000人超 → 300人超 と対象が段階的に広がりました。

公表対象企業は、自社のウェブサイト等で 公表前事業年度における男性の「育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれか を、年1回公表する必要があります。

ITに強くない経営者の方からは「ウェブサイトの公表ってどうやるの?」とよく聞かれますが、自社サイトのお知らせページや採用ページに記載 すればOKです。専用ページを作る必要はありません。

ただし、公表していない事実が労働局の調査・指導等で発覚すると、是正の対象 となるので、対象企業は必ず対応してください。

ポイント5:「養育両立支援休暇」を新設する場合の注意点

ポイント3の選択肢として「養育両立支援休暇」を新設する企業が増えていますが、設計を誤ると年次有給休暇との混同やトラブルの原因 になります。

設計時のチェックリスト

  • 年次有給休暇とは別枠であることを規程に明記する
  • 取得単位(時間単位 or 半日単位 or 1日単位)を決める
  • 賃金の取扱い(有給 or 無給)を規程上明確にする
  • 取得手続き(申請書、口頭、システム等)を決める
  • 繰越の有無を決める(基本は繰越なしでOK)

法令上は、有給・無給いずれも認められており、必ず有給にしなければならないわけではありません。ただし、実際に利用しやすい制度として機能させたいなら、有給扱いとする方が望ましい です。「無給扱い」にすると形式的には条件を満たしますが、実際には誰も使わない死に制度になります。有給扱いにして、本気で「両立支援」を打ち出す のが、採用ブランディングの観点でも有効です。

ポイント6:介護離職防止の対応も忘れずに(2025年4月施行)

「育児・介護休業法」と一括りにされがちですが、介護側にも重要な改正が入っています。育児に比べて社内の関心が薄くなりがちですが、40〜50代の従業員が増えてきた中小企業ほど、対応は急務です。

主な対応項目

  1. 介護に直面した労働者への個別周知・意向確認 家族の介護に直面した旨を申し出た労働者に対し、介護休業や両立支援制度を個別に周知し、利用意向を確認する義務が新設されました。
  2. 介護に直面する前の早期情報提供 一定の年齢に達した労働者(例:40歳到達時)に対し、介護関連制度等の情報を事前提供する義務が生じます。
  3. 雇用環境整備 研修・相談窓口設置・事例収集提供・制度方針周知のうち、いずれかを実施する必要があります。
  4. 介護休暇の取得要件緩和(ポイント1で既述)

中小企業がまず取り組むべきこと

「介護」は本人が言い出しにくい話題です。40歳到達時の情報提供をシステマティックに行う仕組み(人事システムで自動的にメール送信、入社時オリエンテーションで案内など)を作っておくと、運用負担が大幅に減ります。

ITに強い事務所であれば、kintone・Notion・Slack のワークフロー機能を組み合わせて、自動化することも可能です。

まとめ:対応の優先順位

中小企業の方が今日から動くなら、以下の順がおすすめです。

  1. 就業規則・育児介護休業規程の点検(最優先・必須)
  2. 個別周知・意向確認+意向聴取・配慮のフローとテンプレート整備(運用負担を減らす効果大)
  3. 柔軟な働き方の措置(2025年10月施行分)の選択と就業規則反映(過半数代表者の意見聴取も忘れずに)
  4. 介護離職防止の早期情報提供の仕組み化(中長期的な離職リスク低減)
  5. (対象企業のみ)育児休業等取得状況の公表

「うちは対応している」と思っていても、規程と運用が乖離していたり、個別周知の記録が残っていなかったりすると、調査で指摘を受けます。一度棚卸しすることをおすすめします。

おわりに

労務管理は「やればやるほど効果が見える」ものではなく、「やっていないと突然トラブルで噴き出す」性質 を持っています。改正対応は地味な作業ですが、いまのうちに整えておくことで、数年後の大きなリスクを回避できます。

デジタル労務ラボでは、就業規則の改定個別周知・意向聴取のメールテンプレート整備規程のクラウド管理化人事システムでの自動通知ワークフロー構築 まで、ITに強い社労士の視点で一気通貫してサポートします。

「とりあえず一度棚卸ししたい」というご相談も大歓迎です。お気軽にお問い合わせください。